家庭から出るゴミが、やがて金の延べ棒となることをご存じだろうか。これは単なる都市伝説ではなく、実際に日本の工場で行われているリサイクル技術の一環である。今年で創業100周年を迎える**新日本電工(本社・東京都中央区)**の鹿島工場(茨城県鹿嶋市)では、一般家庭から出るゴミの焼却灰を溶融し、資源として再生する事業を展開している。このプロセスの中で金属(溶融メタル)が生成され、その中には金をはじめとする貴金属が含まれているのだ。
ゴミの焼却灰から生まれる貴金属の秘密
鹿島工場では、自治体などで燃やされたゴミの灰を専用の電気炉で処理し、大部分を石状の土木資材として活用している。しかし、その過程で生まれる溶融メタルの約4%には、鉄や銅のほか、金・銀・白金・パラジウムといった貴金属が含まれている。特に注目すべきは、焼却灰1トンあたり最大約90グラム、平均約40グラムの金が含まれている点だ。これは通常の天然金鉱石に比べて十数倍から数十倍もの濃度であり、まさに「都市鉱山」と呼ぶにふさわしい。
年間10万トンの焼却灰を処理する最先端工場
鹿島工場は1995年に一般廃棄物焼却灰の溶融処理を開始し、2002年には専用の電気炉を導入。現在では、東京23区を含む全国94の自治体から年間8万4000トンの一般ゴミ焼却灰を受け入れ、年間10万トンの処理を行っている。
工場に運び込まれた焼却灰は、まず鉄くずなどの不純物を取り除いた後、約20%の水分を除去。そして電気炉に投入され、1500度の高温で溶かされることで金属が沈殿し、取り出される。この過程で生まれる溶融メタルは、非鉄精錬メーカーに販売され、最終的に金の延べ棒へと加工されるのだ。
ゴミから生まれる資源、完全リサイクルの仕組み
金属だけでなく、焼却灰のリサイクルにも大きな意義がある。電気炉で処理されることで、灰は**「溶融スラグ」**と呼ばれる人工の火成岩となり、道路の路盤材や建築資材として再利用される。また、焼却時に発生する「溶融飛灰」も亜鉛や鉛を回収できるため、資源として活用可能だ。
このプロセスにより、搬入された焼却灰の約70%が溶融スラグ、約4%が溶融メタル、約3%が溶融飛灰となり、残りはガスとなる。この完全な循環型処理を、新日本電工は「パーフェクトリサイクル」と呼んでいる。
年間160キロの金を回収、それでも謎は多い
この技術により、鹿島工場では年間約160キログラムの金が回収されている。しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。なぜ一般家庭のゴミから、これほどの貴金属が回収できるのか。実は、この点については自治体や研究者の間でも明確な答えが出ていない。
新日本電工によると、IC基板や電子チップを含んだおもちゃやカード類が、一般ゴミとして捨てられている可能性が考えられるという。電子機器には微量の貴金属が含まれており、それが焼却灰の中に残ることで、高濃度の金が回収されるのではないかという推測だ。
埋め立て地の危機と都市鉱山の未来
日本の民間ゴミの年間排出量は約4000万トン。これが焼却処理されると約400万トンの焼却灰が発生する。しかし、全国の埋め立て地の残余容量はわずか20年分とされ、これまでの単純な埋め立て処理では対応しきれなくなる可能性がある。
現在、貴金属回収が可能な溶融処理は**全国で年間50万トン(自治体30万トン、民間20万トン)**に限られている。そのうち民間シェアの半分を占める新日本電工は、今後の資源循環型社会の構築に向けて、溶融処理のニーズが全国的に高まると予測している。
家庭ゴミが貴金属の宝庫に?今後の展望
今や、都市のゴミは単なる廃棄物ではなく、新たな資源としての価値を持つ時代になった。焼却灰から貴金属を回収する技術は、日本の廃棄物処理の未来を大きく変える可能性を秘めている。さらに、埋め立て地の逼迫という社会課題にも対応できるこの技術は、環境負荷の軽減にも寄与する。
ゴミの中に眠る貴金属を回収することで、日本の資源自給率の向上にもつながるかもしれない。もしかすると、あなたが何気なく捨てた電子機器の一部が、未来の金の延べ棒へと生まれ変わる日も遠くはないのかもしれない。
とは言え、増え続ける家庭ゴミを処理する施設やかかるコストも問題。ゴミ分別の徹底など、ゴミについては、問題が山積なのも事実なのだ。