かつてテレビの前で思わず息をのんだ、あの大ジャンプを覚えていますか?
人気番組『スポーツマンNo.1決定戦』の名物競技「モンスターBOX」で、日本人初の23段跳びを成功させた男――池谷直樹さんです。筋肉と跳躍力の象徴のような存在で、「人間ってこんなに跳べるの!?」と衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。
そんな“モンスターBOX王者”が、いまはキッチンカーでたこ焼きを焼いていると聞いたら、ちょっと驚きませんか?
しかも理由は、1億2000万円の借金返済。なかなかインパクトのある数字です。でも、その裏には、ただの転落劇ではない、池谷さんらしい覚悟と責任感がありました。
テレビスターからキッチンカーへ
池谷さんは、元体操選手として活躍した後、タレントとしてブレイク。『スポーツマンNo.1決定戦』や『筋肉番付』などで圧倒的な身体能力を見せ、多くのファンを魅了しました。
番組終了後は、舞台「マッスルミュージカル」などで活動。さらに、自らが中心となってアスリートによるパフォーマンス集団「SAMURAI ROCK ORCHESTRA」を立ち上げます。
アスリートの“セカンドキャリア”を支える場を作りたい――そんな思いがあったそうです。
しかし、立ち上げ時に大きな金銭トラブルが発生。支援者が公演資金を持ち逃げしてしまい、予定していた公演を自費で行うことに。そこから借り入れが重なり、気づけば借金は1億2000万円にまで膨らんでいました。
「一回で1億2000万円じゃない。積もりに積もってそうなった」
そう語る池谷さんの言葉は、どこか淡々としています。でも、その重みは計り知れません。
コロナ禍で決断した“たこ焼き人生”
さらに追い打ちをかけたのがコロナ禍でした。タレント業や舞台の仕事が激減し、収入は不安定に。
そこで池谷さんが選んだのが、キッチンカーでのたこ焼き販売です。

「大阪人なんでね。うちのたこ焼きはびっくりするぐらい美味しい」
この自信、さすがトップアスリートのメンタルです。
2022年にオープンしたキッチンカー「池谷直樹の跳びたこ」は、各地を飛び回りながら営業中。雪の日も、猛暑の日も、自ら運転して出店します。夏は車内が50度を超えることもあるそうで、「死ぬかと思った」と笑いながら語る姿が印象的です。
体力勝負の毎日。それでも休みはほとんど取りません。
「休みでお金を使ったらマイナスでしょ?だったら少しでもプラスになるように」
このストイックさ、やっぱりアスリート気質ですね。
1日20万円売り上げる実力
気になるのは、実際どれくらい売れているのかということ。
なんと、1日の平均売り上げは約20万円。焼くたこ焼きは1200?1500個。利益率は約50%だといいます。
これはかなり優秀な数字です。
味も本格派で、外はカリッ、中はトロッ。定番ソース味のほか、トリュフ塩味も人気とのこと。「美味しい!」という声が絶えないのも納得です。

さらに2023年には、横浜の商業施設に1号店をオープン。キッチンカーから実店舗へと広がりを見せています。
ただ、キッチンカーは“池谷さんがいないと出店しない”のだそうです。つまり、本人が看板であり、ブランドそのもの。
跳び箱を跳んでいた頃と同じく、最前線に立ち続けています。
なぜそこまで頑張れるのか?
借金は重い。それでも池谷さんは前を向いています。
「頑張れば返せる。でも頑張らないと返せない」
シンプルですが、ものすごくリアルな言葉です。
彼が止まれない理由は、自分のためだけではありません。SAMURAI ROCK ORCHESTRAに所属するパフォーマーたちの居場所を守るためです。
アスリートは引退後の進路に悩む人も少なくありません。だからこそ、自分が作った舞台をなくしたくない。そこには、夢を追い続ける人たちへの責任があります。
かつてアトランタ五輪出場を逃した経験も、きっと心のどこかにあるのでしょう。「挑戦する場所」を守りたいという思いが伝わってきます。
転落ではなく、進化
一見すると、「スターが借金を背負ってたこ焼き屋に」というドラマチックな見出しがつきそうです。
でも実際は、逃げずに働き、笑いながら前に進む姿がそこにあります。
テレビの世界から消えたわけではありません。むしろ、新しいフィールドで戦っています。ジャンプの高さを競う世界から、売り上げと信用を積み上げる世界へ。
競技は変わっても、勝負師であることは変わっていません。
そして何より、どんな状況でも「笑顔が絶えない」というのがすごいところです。苦しいはずなのに、前向きで、ユーモアも忘れない。その姿は、多くの人に勇気を与えてくれます。
モンスターBOXは終わらない
23段を跳んだあの日、池谷直樹さんは確かに“限界突破”を見せてくれました。
でも、もしかすると本当のモンスターBOXは、いまなのかもしれません。
借金1億2000万円という巨大な壁。炎天下のキッチンカー。休みなしの毎日。
それでも「減っていってるよ」と笑う。
人生の段数は、まだまだ高い。でも、きっとまた跳ぶ。そんな確信を持たせてくれる現在地です。
モンスターBOX王者が焼くたこ焼き。そこには、努力と覚悟と、ほんの少しの意地が詰まっています。
もしどこかで「池谷直樹の跳びたこ」を見かけたら、ぜひ立ち寄ってみてください。
あの頃テレビで見ていたヒーローが、目の前で本気で鉄板に向かっています。
そしてきっと思うはずです。
――やっぱりこの人、すごい。
