「簡単に稼げる」の罠――サクラを使った“グループ副業詐欺”の実態

「簡単に稼げる」の罠――サクラを使った“グループ副業詐欺”の実態 コラム

「スキマ時間で簡単に稼げる」――そんな甘い言葉に誘われ、気づけば大金を騙し取られていた。最近急増しているのが、“タスク詐欺”と呼ばれる新手の副業詐欺だ。これは、小さな報酬を餌に信用させ、最終的に高額な入金をさせる手口で、多くの被害者が出ている。

27歳の主婦・工藤美幸さん(仮名)も、その罠にはまった一人だ。今年6月、彼女は125万円を騙し取られたという。


石鹸の内職から始まった悪夢

工藤さんが最初に目をつけたのは、SNSで見かけた「石鹸を個包装する内職」の広告だった。しかし、問い合わせをすると「石鹸の副業は満員」と断られ、代わりに動画の再生数を増やす副業を紹介された。

「LINEでやり取りしたのは、『ホシノユウアイ』という人物でした。不自然な日本語でしたが、最初に紹介された動画の再生作業は簡単で、数分後にはPayPayで200円が振り込まれたんです」

これに安心した工藤さんは、さらに数回タスクをこなし、小銭を稼いだ。しかし、その後紹介されたのは、より高額な報酬が得られるという“別の副業”だった。

「簡単に稼げる」の罠――サクラを使った“グループ副業詐欺”の実態


暗号資産を使った「高額タスク」で信頼を築く手口

次に紹介されたのは、「BITNEX」という暗号資産ウォレットを利用したタスクだった。指定された暗号資産を購入すれば、入金額の30%が報酬として支払われるという。

「試しに1万円入れてみたら、1万3000円が振り込まれました。しかも、すぐに出金もできたんです」

この成功体験が、さらなる投資へと彼女を駆り立てた。次に提示されたタスクは「10万円を入金すれば13万円に増える」というもの。工藤さんはこれも試し、無事に利益を得ることができた。ここで彼女の警戒心は完全に解けてしまった。

「簡単に稼げる」の罠――サクラを使った“グループ副業詐欺”の実態


グループ副業の罠――倍増するタスクとサクラの存在

その後、工藤さんは4人のグループに招待された。

「『グループでタスクをこなしてください』と言われました。でも、いざ始めると、タスクは一気に4倍に増えたんです。10万円×4回、つまり40万円の入金が必要になりました」

さらに、グループ内で指示されたタスクのうち1回だけ、異なる暗号資産を購入するという内容になっていた。しかし、工藤さんはその点に気づかず、ミスをしてしまった。

「すると、『50万円追加入金しないと次のタスクには進めません』『出金もできなくなります』と連絡が来ました」

困り果てた工藤さんは、同じグループのメンバーに相談。しかし、返ってきたのは「私も追加入金してタスクをこなしたら、ちゃんと報酬をもらえましたよ」という即レスだった。

しかし、後に分かったのは、グループのメンバーは全員サクラだったという事実だった。

「私は追加で入金してタスクに挑戦しましたが、今度は『タイムオーバーで失敗』と言われました。その直後、また同じように『追加で入金すれば大丈夫』というメッセージが送られてきたんです」


タスク詐欺の裏側――システム開発者が語る手口

こうした手口を「タスク詐欺」と呼ぶ。フリーのプログラマーで、過去にタスク詐欺グループと関わったことがあるX氏は、その裏側についてこう語る。

「タスク詐欺にはさまざまなバリエーションがあります。単純な作業から徐々に複雑なタスクへと発展させ、最終的にはグループでの作業を強要するのが典型的なパターンです」

彼によると、詐欺グループは巧妙に被害者を取り込むため、単にタスクを難しくするだけでなく、被害者に“特別なポジション”を与える手法を使うこともあるという。

「例えば、『あなたには1000人が参加するプロジェクトの管理を任せる』とか、『暗号資産取引所のマネージャーになってほしい』といった話を持ちかけるんです。そうすると、被害者は副業のつもりが“運営サイド”に立ったと錯覚し、『このポジションに就くためには保証金が必要』と言われても、つい支払ってしまう」


被害者が警察に相談しにくい理由とは?

さらにX氏によると、詐欺師たちは被害者が警察に通報しにくいように仕向けることにも長けている。

「例えば、『新規プロジェクトの宣伝担当』というタスクを与えた被害者に対して、『内部情報を知る立場になるためには20万円の保証金が必要』と言うんです。また、『海外発のプロジェクトの日本マネージャー』に指名された人には、『本社があるリトアニアまで来るか、50万円の保証金を払うか選べ』と迫ることもあります」

こうした手口は、一般的な投資詐欺とは異なる。タスク詐欺は、個々の被害者から100万円前後の金額を狙うケースが多く、不特定多数から一気にお金を騙し取る投資詐欺とは一線を画す。そのため、被害者同士が団結して警察に訴え出るケースが少なく、摘発が難しくなっているのだ。


「簡単に稼げる」には要注意!

今回のケースのように、「簡単なタスクで稼げる」という話には、危険な落とし穴が潜んでいることが多い。最初は少額でも、気づけば高額な入金を強要されるのがタスク詐欺の特徴だ。

もし、SNSやLINEなどで「楽に稼げる副業」を見つけたら、一度立ち止まり、その仕組みを冷静に考えることが重要だ。甘い言葉に騙されず、慎重な判断を心がけたい。