水原一平被告、禁錮4年9カ月と26億円の賠償命令――果たして支払いは可能なのか?
大谷翔平選手の元通訳であり、違法賭博と銀行詐欺の罪に問われた水原一平被告。判決は禁錮4年9カ月に加え、大谷選手への26億円の賠償支払いを命じるという厳しいものとなった。この巨額の賠償金はどのようにして支払われるのか、そもそも支払いは可能なのか――裁判の詳細とともに、その現実を見ていく。
厳しい判決を招いた“手紙”の内容とは?
「お名前をお願いします」 「大谷翔平です」
水原被告が銀行オペレーターに対し、大谷翔平選手をかたって資金をだまし取ったとされる手口が明らかにされた裁判。証言の中では、彼が大谷選手の口座から金を引き出し、その目的を「車のローン」と偽ったことが指摘された。
また、法廷では次のようなやり取りもあった。
「大谷選手は水原被告へポルシェをプレゼントしていましたか?」 「はい。返しました」 「そのポルシェの価値は?」 「SUV(スポーツ用多目的車)タイプですが、クラシックポルシェより安いと思います」
こうした証言を通じて、水原被告が大谷選手との関係性を利用し、多額の資金を動かしていたことが浮き彫りになった。
水原被告は裁判所に提出した手紙の中で、「給料が安かった」「大谷のサポートは多忙だった」といった点を挙げ、情状酌量を求めた。しかし、結果的にこの手紙は逆効果だったようだ。
国際弁護士の吉田大氏は、今回の判決について「通常であれば、司法取引を行い捜査に協力した場合、求刑より軽くなるのが一般的だが、今回は求刑通りの判決が下った。これは非常に珍しいケースであり、水原被告の手紙が裁判官の心証を悪くしたことが明らかだ」と指摘する。
裁判官も「水原被告の手紙は間違いだった」と述べ、厳しい態度を示した。このように、彼の弁明は全く通じず、最も重い結果を招いたのである。
水原一平被告、無表情のまま収監へ
裁判の傍聴をしたスポーツ記者によれば、水原被告は判決が下された際、無表情のまま質問にも答えなかったという。
「彼は非常に無表情で、反応もありませんでした。私は一平と長い間一緒に仕事をしてきましたが…」(ジ・アスレチック サム・ブラム記者)
水原被告は控訴を行わず、このままアメリカの刑務所に収監されることが決定している。大谷選手の側近として活躍していた彼が、一転して囚人となるという劇的な転落劇を迎えたのだ。
26億円の賠償、支払いは可能なのか?
今回の判決では、禁錮4年9カ月の実刑とともに、大谷選手への26億円(約1億7000万ドル)の賠償命令が下された。しかし、果たしてこの巨額の金額を支払うことは可能なのだろうか。
ロサンゼルス支局長の力石大輔氏は、アメリカの刑務所での労働制度について次のように解説する。
「刑務所内ではヘアサロンやカフェテリアでの労働、ナンバープレート作りといった刑務作業があるそうですが、時給はわずか25セント(約37円)ほど。四半期ごとに25ドル(約3700円)を支払う決まりになっています。しかし、この時給では26億円を支払うには到底足りません」
また、刑期を終えた後も、水原被告には賠償金の支払い義務が残る。最大20年間にわたり、収入の10%または最低200ドル(約3万円)を毎月支払う必要があるという。まさに「一生をかけて罪を償う」状況に置かれるのだ。
水原被告の未来――返済の見通しは?
現実的に考えると、水原被告がこの26億円を全額返済することはほぼ不可能に近い。刑務所の低賃金労働では到底追いつかず、釈放後に高額収入の仕事に就く可能性も限りなく低い。
アメリカでは、多額の賠償金を支払えない場合、破産申請が考えられるが、詐欺犯罪に関連する賠償金は通常、免責されない。そのため、彼の借金は破産しても消えないのが現実だ。
また、賠償金の支払いが滞った場合、追加の法的措置が取られる可能性もある。給与の差し押さえや、財産の没収など、彼の経済活動は今後大きく制限されることになるだろう。
「一生かけて償う」重すぎる代償
かつては大谷翔平選手の信頼厚い通訳として、メジャーリーグの世界で活躍していた水原一平被告。しかし、違法賭博に手を染め、大谷選手を欺いた結果、彼の未来は暗転した。
禁錮4年9カ月の実刑、そして26億円という巨額の賠償――この罪の重さを考えれば、彼の人生はこれから「償いの時間」へと突入することになる。刑務所の中での低賃金労働、釈放後の長期間にわたる返済義務、そして社会的な信用の喪失。彼にとって、かつての栄光はもはや取り戻せないものとなった。
水原被告の転落劇は、多くの人々にとって衝撃的なものであり、プロスポーツ界における倫理観の重要性を改めて浮き彫りにする出来事となった。